板橋区ホタル生態環境館の元飼育担当職員(58歳 資源環境部環境課主事)が懲戒免職になった処分理由 のひとつは「せせらぎ」に関する不正です。元職員は、板橋区が特許権を保有する「ホタルの累代飼育技術」=ホタルが棲息する水路(せせらぎ)づくりで、特定業者に便宜をはかり、区の歳入になるはずだった特許使用料を独断で免除してしまったことです。
区が事実認定したのは次のとおりです。
◇平成24年2月~3月
静岡県C町で施工されたホタル水路整備について、D事業者を紹介し請け負わす。
また、D事業者が静岡県C町に提出した「業務代理人等通知書」には、主任技術者と記載され業務にも携わった。
◇平成24年5月
静岡県C町宛に文書で「ホタル飛翔に関する事項〔最低五年間〕」を提出し、区に歳入するべき特許実施料金の免除を約束。
ここでC町とは小山町 、D事業者とは(有)ルシオラ であることがわかっています。
区の調査の中で契約書などの証拠書類を確認できたのは、小山町のせせらぎについてだけでした。このため、処分理由にあげられたのは小山町の1件だけですが、元職員がかかわった全国のせせらぎ事業は他にも多数あります。
◆元職員の「収入」にもなる特許料
まず、せせらぎづくりなど、ホタル飼育に関する特許で、これまでどのくらいの歳入が区にもたらされたか、を見てみましょう。
この表は私が3月10日の区議会企画総務委員会で資料要求したものです。平成13(2001)年度から平成19(2007)年までの間に、「せせらぎ(1件120万円)」と「生態水槽(1件20万円)」を合わせて25件・計1000万円が区の歳入となりました。
ただし、このうち289万円が元職員の収入になっています。これは特許料収入について、区が6割、発明者(この場合は元職員)が4割と区の規則で定められているからです。
元職員は著書などでは、この発明者収入については語ろうとしていませんでした。
「私がホタル再生のお手伝いをすると、生態水槽で20万円、『せせらぎ』空間で120万円の発明料(特許取得後は許諾料)が、これまた区の収入になる。
私は公務員ですから、もちろん給料以外の報酬はありません。それは別にいいんですよ。」
(2012年8月『ホタルよ、福島にふたたび』 阿部宣男・著)
「給料以外の報酬はない」というのは、事実ではありません。
◆特許料「免除」のルールなど存在しない
さて懲戒処分を不服とする元職員は、4月3日に代理人の弁護士とともに記者会見し「区を相手に提訴する」としています。
会見で元職員は「特許を申請する前から交流のあるところには、料金を請求しないように以前から取り扱ってきた」(東京新聞4月4日付け)、「上司から指示された」(毎日新聞4月4日付け)などと主張しているようです。
また元職員の弁護士も、「これまでの取り扱いは、平成14年の1月以降の新規の取引先に対しては発明料を請求するが、しかし、それ以前から交流のあるところに関しては新規ではないので、以前からのお付き合いの継続として処理して発明料を請求しないということでありました」(3月22日付け『意見書』)といいます。
しかし、板橋区の「ホタル飼育事業に係る板橋区有著作権及び特許権等に関する要綱」 (平成14(2002)年2月28日区長決定)には、特許料を免除できる規定はどこにもありません。
この要綱は「平成14年1月1日から適用する」と明記してあるとおり、平成14年1月1日より前には適用されず、したがって、それより前の「せせらぎ」には請求できないのは当然です。以降のせせらぎについては全て特許使用料(発明料)を請求するというのが、区の要綱であり、それ以外のルールはありません。
「平成14年1月以前から交流のあったところには請求しない」ルールがあったというのは、元職員の「創作」でしかありません。
仮にそんなルールがあったらどうなるでしょうか?
「交流のあったところ(自治体)」は日本全国どこにもあるといっても過言ではありません。「板橋区とは昔からご縁がありまして…」と相手からいわれたら、事実上、請求などできなくなります。
また25件の特許使用料を支払っていただいたところとも、平成14年以前からなんらかの交流があったところもあるでしょう。免除を許せば不公平このうえないことになります。もしどうしても免除が必要な場合があるなら、それは明文規定にしているはずです。明文規定のない「免除」など、違法の恐れすらある不当な行為です。
◆元職員と特定業者との深い関係
要綱による正規のルールでの特許使用料収入が平成19(2007)年度を最後に途絶えていることも気になります。
元職員は、これまで100か所以上でせせらぎをつくり、そのすべてでホタル再生に成功してきたとさまざまな場所で主張してきました。100か所以上というのが本当なら、区に歳入があったのは25件ですから、およそ70件以上で特許使用料が「免除」された疑いも持たれます。決して静岡県小山町だけで終わるものではありません。この点も、元職員に聞いてみたいところです。
懲戒理由としては特定事業者・(有)ルシオラ に便宜供与したことも問題にされました。
元職員は、小山町に工事施工者としてルシオラを指名し、小山町にルシオラが提出した「業務代理人等通知書」には、ルシオラ側の主任技術者として元職員が名を連ねています。
小山町からすれば、土木工事は入札などで事業者を決めるのが通常だと思います(できれば地元業者を、ということもありますが…)。ところが、ホタルという特殊事情によって、元職員が指名する業者しか選択枝がありません。 また、5年間のホタル飛翔の約束に、どんな担保(保障)があるのでしょうか? 元職員の自信の根拠を知りたいところです。
小山町には申し訳ありませんが、板橋区はその責務を負いかねます。
ルシオラの社長が「いたばしホタルの安全〈いのち〉を守る会」のフェイスブック・ページに書き込んだコメントに、せせらぎづくりに関する業者指名の問題について、ルシオラの意見を書いています 。
ルシオラ社長は「当時の前石塚区長のご了解および指導の元、2004年10月以降、(有)ルシオラがホタル再生のほとんどすべてを行ってきています」といいます。 石塚前区長の名前が出てくるのもびっくりですが、2004年10月以降はルシオラがせせらぎづくりなど、ホタル再生のほとんどを独占してきたというのです。
しかも、元職員に「特許権実施料の請求に対する判断をすべて、委ねられていた」というのも驚きです。社長は元職員を「館長」と呼んでいますが、実際には館長ではなく「主事」であり、決済する権限などありません。
「この約束事が、もしどこかで変更されたのであれば、通常、区はそれを事前に阿部館長に通達しなければなりませんが、そういうことも一切無かったそうです」とも言っていますが、そもそもそんな「約束事」は存在しないのですから、「通達」などしようもないのです。
通常、自治体が事業者を選定し契約を結ぶには厳格で公正な手続きを経ることが当然要求されます。 その手続きを経ずに主事という一般職員が勝手に業者を指名すること自体、違法なことです。しかも、その異常な関係が9年以上も続いていたとは…!
◆ルシオラとは この異常な関係の一端を示す資料をネット上で発見しました。 それは、板橋区内のある分譲マンションの管理組合によるブログ です。このマンションには敷地内にホタルのせせらぎがあるようで、その管理についての質問に「ホタル博士」が答えくれたというのが、ブログの内容で、「ホタル博士」からの回答が引用されています。 「板橋区ホタル飼育施設は板橋区直営で有るために、委託は受ける事は出来ませんが、業者をご紹介は出来ます。特に当施設がお願いする会社は、茨城大学ベンチャー企業(代表及び役員は茨城大学教授及び准教授です) 「ルシオラ」を紹介しています。 費用的には3ヶ月に一度程度5万円前後の様です」(2007年9月5日)
「板橋区ホタル飼育施設(生態環境館の以前の名称)」がルシオラの紹介窓口のなっていたのです。
(有)ルシオラは、ここにも書かれているように茨城大学の関係者によるベンチャー企業で、平成15(2003)年12月に設立しています。2004年12月の茨城大学のニュースレター によれば、設立当初の代表取締役には稲垣照美・工学部教授ほか数人の茨城大教授が務めています。 稲垣教授は、元職員が博士号を取得した論文執筆で指導教官を務めた「恩師」であり、元職員とは深い関係があります。
ルシオラのホームページ には、「共同開発及び技術指導:理学博士 阿部 宣男」、「理学博士 阿部宣男氏とコラボレーションを組み」
などの記載があり、元職員との一体ぶりを誇示しています。
またルシオラ関係者が、ボランティアスタッフとしてホタル生態環境館のなかでも活動しています。
もともと個人的なつながりが深い企業を公務員が指名することは、「縁故」を利用したもので、公平な契約行為とはいえません。これ自体許されるものではなく、元職員はまず区民に謝罪すべきでしょう。
また元職員は「金銭は一切受け取っていない」と主張していますが、ルシオラとの不適切で密接な関係をみれば、疑いはぬぐえません。 区に歳入されるべき特許料や、ルシオラの得た利益が、どう還元されたのか、ぜひ明らかにしていただきたいと思います。
(つづく)