今回は連載を中断し、板橋区ホタル生態環境館の疑惑について、寄せられたご質問にお答えします。(私「松崎いたる」のフェイスブックに掲載した文章に加筆し、再録します)
① 何万人も見学しているのに、「偽装」なんて出来るの?
Q ホタルがいたか?いなかったか? 25年間の間に、何万にという人達が見てきたのが生き証人ではないですか?
A 私も当初はそう思っていました。しかし細かな点を考えると疑問がわいてきました。
まず、何万人という人たちが見たホタルは「成虫」だということです。また、その成虫が産んだ卵も何十万の規模で存在していることも目撃者は多い。さらにその卵から孵った孵化幼虫も、学生さんたちなどが「スポイト等を使っての個体数を数えた」と証言していることから、確かだと考えてよいと思います。
問題になるのはここからで、せせらぎに入ってからの幼虫の目撃者が、元飼育担当職員やその周りの人たちだけに限られ、一般の人はもちろんの事、元職員以外の環境課職員も、だれも目撃・確認していないのです。
ここから疑念が生じます。
6月、7月の数日間のみにおこなわれる成虫の夜間公開以外の、ホタル館の日中の見学は事前予約制になっていました。予約なしでも、ほかに予約がなければ見学可能でしたが、見学希望者が予約なしでホタル館を訪ねると「臨時休館」になっていたという事例が多く、板橋区の庁内でも問題になっていました。
そんなこともあり、幼虫を観ることのできる人は限定されてきました。
「成虫を見た人は何万人もいるのに、せせらぎにいる幼虫を見た人はいない」ということが疑念の生じる背景です。
25年間のすべてで「偽装」がおこなわれていたとは思いませんが、少なくともクロマルハナバチ飼育などに力を入れだしたあたりからのホタル飼育の実態を検証する必要があります。
(2015年5月8日追記 「25年間のすべてで『偽装』がおこなわれていたとは思いません」とは、2014年4月の時点での私の認識です。その後にわかったことから考えると「25年のすべて(ホタル飼育事業が始まった平成元年から)で偽装があった」と断定せざるをえません。その根拠は①初年度である平成元~2年に飼育されたホタルの羽化率が50%超という常識外れの高率であること②平成7年に元職員が報告していた「20万匹」という羽化数が、元職員自身のテレビ番組での証言によってウソだとわかったこと ③そもそも板橋区ホタル生態環境館のせせらぎの容積では2万匹規模の羽化は、飼育密度から考えてほとんど不可能なことなどです。元飼育職員からも25年間累代飼育の成功を裏付ける客観的資料は提出されていません)
② ボランティアがそばにいるのに、外からホタルを買ってくるなんて…?
Q もしもホタルを外から買ってきて放っていたとしたら、それを見ていたボランティアの方が25年間も無償でお手伝いする想いが続くとは到底思えません。
A ホタルは専門業者によって成虫が1匹300円前後で販売されている実態があります。「ホタルまつり」などのイベントにあわせて成虫になる羽化の時期を調節することもできるそうです。
しかしそうした販売業者から阿部さんらが購入していたとは、私にも考えにくい。なぜなら、ホタル博士である元職員は、ホタル関係者のなかではカリスマ性をもつ超有名人ですから、「ホタルを買った」となれば、すぐに足がついてしまいます。
ただし、ホタル館の業務を委託されている「むし企画」を通じれば、秘密裡にホタルの成虫ないし成長した幼虫を入手することが可能になります。むし企画はもともと、ホタル飼育の技術があるからこそ、随意契約されています。
私もむし企画の前代表と現代表の所在地に行き、関係者から「ホタルを飼っていた」「ホタルを扱っていた」と証言を得て、確認しています。
もちろん、むし企画経由のホタル入手は「可能性がある」段階で、事実かどうかはさらなる調査をしなければなりません。
その点で、現在のむし企画代表が、委託金1400万円の使途、ホタル館で働いていた従業員の人数・氏名などを、区にも報告せずにいることは極めて不自然で疑いを濃くするばかりです。
ボランティアの多くは善良な方と私も信じていますが、残念なことに、その中心メンバーには、元職員とともにホタル館を舞台に営利事業をおこなっていた人たちも多く、元職員と利益共同体である以上、その証言を信頼できません。
元職員は自分が信頼する人物にホタル館のカギを預け、夜間なども自由に出入りさせていたことが発覚しています。そうした人物たちが共同すれば、ホタルの外部からの持ち込みも可能になります。
③ 区の調査を「不適切だ」と訴えている人たちがビデオ撮影しています
Q ビデオ撮影者はなぜ「目の前にいる幼虫に気づかなかったのか」という松崎さんの疑問について、私の私見を聞いてください。
…(中略)…突然調査という名目で大人数が入り込んできて、イザコザを経てビクビクしながらそこから逃げずに(いやもしかしたら逃げられずに)、お上(おかみ:行政官)の人達の横暴に立ち会うだけで精一杯だったと思います。
A 大事なところを省略したとしたら、お許しください。
しかし結論的には、撮影当日には撮影者は「ホタルを認識できなかった」、あるいは「ホタルを認識できたが、その場で言い出せなかった」ということだと思います。
私が問題にしているのは、どんな理由にせよ、調査の当日にはビデオ撮影者を含め多くの目撃者がいながら、現場では誰一人ホタルの幼虫の存在を確認できなかったのに「あとになってビデオを観たら幼虫が映っていた」という主張の不自然さです。
ビデオは決して鮮明なものとはいえないものです。だからこそ、記者会見場で公開した際には、多くの説明キャプションと、ホタルと思われるモノには〇印や矢印をつけることが必要となりました。
映像で印をつけた黒いモノをどなたが、どのような根拠をもって「ホタルの幼虫」と断定したのでしょうか? この場合、元職員が断定したとすれば、自分に有利な判断することが考えられ、そのまま信用することはできません。
さらに、誰か第三者が「ホタル」と断定できたとしても、映像に映っていたのはわずか3匹で、これだけでは「2万匹のホタル飼育」の裏付けにも、「ホタルの大量抹殺」の証拠にもなりません。
④ ビデオと区の調査報告書にはかい離があり、区の報告は信用できません。
A ビデオを見ると、(板橋区の調査)レポートの内容と実際の調査方法には大きな乖離がある。これについて松崎さんの見解を伺いたい。
Q いたばしホタルの安全を守る会のビデオ映像は調査の全部を映したものでなく、一部の場面を切り取ったものです。一方の区側のレポートも文章と写真・図によって構成されているものです。両者を比較して「かい離がある」と判断することはできません。
私は区側の調査方法が最善の方法だとは思っていません。
もともと、自然界のホタルの生息数を数えるのではなく、人工の飼育施設のホタルの数を飼育の途中で数えるなど、通常なら必要ないことです。ふさわしい調査方法など、ないに等しいと思います。
それでも区側が調査に踏み切ったのは、「外部からのホタル持ち込み証言」のほか、一部ボランティアにカギが渡されたいたこと、元職員に数々の不正行為(今回の懲戒理由になったこと)に疑いがあり、さらに「むし企画」から飼育実態に関する報告がなかったことなどから、元職員に事前通告なしに調査したと、私は理解しています。
区側が当初、こうした説明が出来なかったのは、元職員への調査の途上であったためと推察できます。
いずれにせよ、調査方法にいくらかの不備があったとしても、発見できたホタルが2匹というのは少なすぎます。2万匹以上いるはずのホタルの幼虫が消えてしまったことを「調査方法のまずさ」で説明するのは無理があります。
再調査を求める声があるのは、もっとなところもありますが、「いたばしホタルの安全を守る会」など、すでに「抹殺」されたといっています。「いない」ことの口実がすでに用意されている段階では、再調査はほとんど無意味です。
なお、数はわずかであっても、いまなおホタル館に生息するホタルが生存する可能性は大いにあります。それでも、2万匹という規模には遠く及ばないでしょう。