ホタル館の元職員との和解に反対する討論
2017年3月7日
板橋区議会議員 松﨑いたる
◆疑惑を闇に葬る「和解」
私は、議案第23号に反対する立場から、この討論を行います。
今回の訴訟の和解案は、板橋区ホタル生態環境館をめぐる数々の不正の事実、疑惑の真相を区民から遠ざけようとするものです。
刑事事件として立件できる要件を満たすかどうか、また真の首謀者は誰であるのかは、これからの検証を待たねばならないとしても、こんにちまでに明らかになっている事実に照らして、ホタル館を舞台に行われていたことは、公務員倫理や市民的道徳に反する悪質な不正だったことは明らかです。
事実ではないこと「事実だ」として示して、一般市民や政治家、行政機関まで錯誤に陥らせ判断を誤らせることは、詐欺罪にも発展しかねない欺罔行為です。
ホタル館では、まさにこうした欺罔行為が長期にかつ広範囲に行われてきました。
今回の和解は、ホタル館をめぐる疑惑の真相、事件の本質を当事者である元職員と板橋区の双方で覆い隠そうとするものです。
しかも、区民負担で原告側に金銭を渡すなどは、二重に区民を裏切り、損害を与えるものです。
◆非違行為の事実はある
懲戒の対象となった原告の行為があったのか、なかったのか、その存否について、原告・被告で争いはありません。
原告の行為を確実に立証する証拠は原告の署名捺印の契約書など、被告板橋区によって多く示されており、原告自身がその事実を認めています。
委員会審議のなかでの「立証する証拠が足りなかった」などという指摘は、事実経過を顧みない、まったく的外れのものです。
争点は、証拠に示された原告の行為が、「区に無断で私的に行われた結果としての非違行為であった」と被告板橋区の主張が正しいのか、それとも「原告の行為は区公認の業務命令に基づく公務であり非違行為には当たらない」とする原告の主張が正しいのか、という点にあります。
ないことを証明するのは悪魔の証明ですが、公務であったと言うのなら、原告は、その証拠を示すことができるはずです。しかし、公務であったという立証は何一つできていません。
「裁判官に区の主張は認めらなかった」と言う人もいますが、これまでの裁判の中では、双方が主張しあい、その証拠を出し合っている状況で、裁判官が、その当否の判断を下したことはありません。
民事訴訟において、和解を勧めないことのほうが、まれであり、和解の勧告が出されたことをもって「裁判所の判断だ」とすること自体、行政や議会の主体的責任を放棄した議論であり、区民への裏切りです。
原告の行為は、板橋区職員という公務員の信用を悪用した悪質なもので、板橋区に決裁を受けた公務であると偽るために、坂本区長からの指示命令をねつ造する、また架空の虚偽文書を作成・交付するという、公務員倫理はおろか、刑法にも触れかねないことを行っています。
原告は「公務である」との主張をいまだに撤回していません。
具体的にみると、次のようなことです。
◆小山町のホタル水路工事とルシオラ社への便宜供与
静岡県小山町でのホタルのせせらぎづくりに関する契約行為は、たんに職務から逸脱した私的な契約を区に無断で結んだということにとどまりません。
板橋区公認の契約だと相手方自治体に偽り、「板橋区には特許使用料免除の規定がある」などと伝え、小山町とルシオラ社との契約を結ばせ、自らはルシオラ社の主任技術者としてこの工事契約に加わりました。しかし、板橋区には特許使用料の免除規定など存在していません。原告はいまだにこうした条例や要綱をねじ曲げた嘘をついたことを認めず、無反省なまま、事実と異なる主張を続けています。
原告によるルシオラ社への便宜供与は、この一度限りではありません。それは、ルシオラの現社長自身が、2014年4月13日に「当時の前石塚区長のご了解および指導の元、2004年10月以降、有限会社ルシオラがホタル再生のほとんどすべてを行ってきています」と、板橋区が所有管理しているはずのホタル特許の実施を300件近く、原告とともに担ってきたと公言していることからも明らかです。
もともと同社は、原告に博士号を与えた指導教官である茨城大学の教授が設立した会社でした。そして、博士となった原告のもとにホタルの飼育技術に問い合わせなどをしてきた個人、企業、団体、自治体などに、ルシオラ社を紹介し、ホタル関連の工事契約など、原告は同社に斡旋してきました。
また原告は、「板橋区が特許を出願して、ホタル再生支援事業に本格的に取り組んでいく中で、石塚前区長や板橋区の有力者であるN氏などと再生支援の裏方を担う企業は、民間企業よりも大学のベンチャー企業がよりのではないかとの議論がなされ、ホタル再生支援事業を担う母体が新たに創設されることとなった。このような経緯のなかで、有限会社ルシオラは平成15年12月25日に茨城大学のベンチャー企業として設立された。ルシオラが当初からホタル再生支援事業の裏方を担うことが予定されていたことは、板橋区の原告の上司ももちろん知っていた」とのべ、同社が石塚輝男前区長の指揮のもとに設立された、なかば板橋区公認の会社であったとも主張しています。これも信じるにたる根拠と証拠のない話ですが、その真偽を明らかにする責任の一端は板橋区にもあります。
懲戒免職の理由になったルシオラ社への便宜供与の原因・背景として、博士号取得とルシオラ社設立、同社への仕事の斡旋など、原告の役割、また同社と前区長の関わりの有無など、裁判を通じて明らかにする責任が板橋区にはあります。
◆石川県能登町とのクロマルハナバチに関する不正契約
石川県能登町の公社とのクロマルハナバチの商業的契約も、たんに区に無断で私的契約に関与したということだけで済まされるものではありません。
これも、板橋区の公認の公務だと偽って区の信用を騙り、能登町長や能登町議会を錯誤に陥らせ契約させています。
契約の当事者であったのは「イノリー企画」という名の業者ということになっていますが、能登町にハチを販売するためにつくられた、ほとんど実績、実態のない会社です。これも原告の周辺人物によってつくられています。イノリー企画の事務所の所在地がホタル館の中ににあるとして設立申請の書類が出されています。公共施設であるホタル館が区長や区議会も知らないうちに民間の営利のために占有、利用されていたことは、重大な不正行為です。
さらに、この契約における最大の問題は、イノリー企画が実績のある企業だと能登町長や町議会に思わせるために、イノリーと板橋区ホタル館との「業務提携契約書」というニセの書類がねつ造され、能登町側に示されていたことです。
この「業務提携契約書」の日付は平成21年7月1日となっていますが、この当時、イノリー企画の実態は存在せず、しがって、この契約書も存在していません。これは原告自身が証言していることであり、新たな立証の必要のないことです。
原告は次のように述べています。
「平成21年7月1日付けの『業務提携契約書』であるが、これはそもそも平成23年4月1日の同日の交わされた文書であって、もちろん平成21年のものではありえない。
この文書は、新しい契約の相手方としてイノリー企画が登場したため、能登町が、対外的に信用上の問題をクリアにするために要求したもので、原告は事前に上司であるK係長に相談し、その了解の上で作成したものに過ぎず、原告とイノリー企画との間に、かかる契約関係があったという事実はない」。このようにあからさまに、嘘をついたことを告白しています。
対外的な信用を得るために、能登町からの要請によって、このニセの業務提携契約書を作成したのだから、詐欺には当たらないなどと主張していますが、能登町議会は業務提携の事実がなかったことは「知らない」としています。
また原告に名指しされた当時の係長も、相談や了解がなかったと明確に否定しています。
誰がニセの書類の作成の首謀者であったのかは不明だとしても、このニセ書類を信用の根拠にして契約を結んだとすれば、違法性が問われる重大問題です。ウソと知りつつニセ書類の作成に関与した原告もその責任は免れません。
原告が関わったウソはこれだけではありません。原告が能登町公社に送った電子メールでは、板橋区が諸経費を負担し施設を提供することなど、坂本区長が直接原告に指示したとされています。
区長が部課長を通さず、直接一般職員に指示命令を下すこと自体、考えにくいことです。仮に何らかの形で指示が行われていたとすれば、議会への報告も承認もなしに、予算のかかる約束事を他の自治体と交わしていたことになり、地方自治法上や地方財政法にも抵触する大問題です。
原告は、このメールをクロマルハナバチ契約が板橋区の公務であった証拠として、複数の裁判で提出しており、いまなお、その主張を撤回していません。
こうした明らかな虚言を撤回させないまま、和解するならば、板橋区の信用が大きく損なわれることになります。
◆公共施設の私的占有
ホタル館の鍵が原告の知人である一般民間人にゆだねられていた事実も、けっして軽微なことではありません。
区民の共有財産であるはずの公共施設が特定の私人のよって私物化されていたことを示すからです。
原告が、夜中の1時近くまで、休日なしで残業していたと主張していますが、その時間帯もじっさいにはこの原告の知人ひとりがホタル館に在室していたことも区の調査で明らかになっています。こうした事実があるにもかかわらず、原告が残業代を請求すること自体が不当なことでした。
現実離れした荒唐無稽な原告の主張を容認し、区民負担を伴う和解に応じた区議会の責任はきわめて重大です。
◆ホタルの持ち込みの事実
宗教法人である鶴岡八幡宮所有のホタル成虫をホタル館内に持ち込ませ、原告が再雇用職員に命じて、雄雌の仕分け作業を行わせていたことは、重大な職務専念義務違反であり、公務員として踏み外した行為です。
そしてこの件は、日常的に外部からホタルが持ち込まれていたことを示す事実であり、原告の「ホタルは移動させると威嚇光を放しやがて死ぬ」とか、「輸送の際には保冷剤が必要なはずだ」など、ホタル持ち込みに対する原告の反論を否定する重要な証拠にもなっています。
今回の和解案で、懲戒事由にもなっていないホタルの累代飼育と特許取得に関しての記述が盛り込まれたことは、ホタル館では何が行われていたのか、という区民がいちばん知りたい真実を覆い隠すものであり、ぜったい容認できません。
◆実態のない「累代飼育」
原告は平成元年から25年以上、ホタルの累代飼育を続けてきたと区や区民に報告してきました。
累代飼育とはホタルを、途中外部から導入することなく、卵、幼虫、さなぎ、成虫、そしてその成虫が産卵した卵から同じサイクルを繰り返すという飼育方法ですが、この累代飼育が成功していたことを示す根拠は原告自身の報告や証言しかなく、客観的な証拠は何もありません。累代飼育が成功した証明もされていません。
一方で、累代飼育を否定する合理的な根拠はいくつも存在しています。
その最大のものは資源環境部によるDNA鑑定です。ここでは本来、福島県大熊町由来であるはずのDNAは検出されず、西日本産のホタルが持ち込まれていたことが証明されました。区の報告書は慎重に、最後の一年分に限定して累代飼育を否定していますが、それ以前から持ち込みがあったと考えることは自然なことです。
残された過去の記録を見ても、やはり累代飼育は疑わしいと言わざるを得ません。
まず初年度の羽化率が異常なほど高いことです。
原告は平成元年に福島県大熊町からゲンジボタルの卵300個、栃木県栗山村のヘイケボタルの卵700個を採取して累代飼育をはじめたと主張しています。その初年度に300個の卵から成虫まで成長したゲンジボタルは150匹、700個の卵から成虫になったヘイケボタルは550匹だったと原告はいいますが、その羽化率はそれぞれ50%、78.6%となります。ホタルの羽化率は、原告自身も認めているように、一般にわずか1%前後といわれており、人工飼育でも数%になるかならないかです。
にもかかわらず50%を超える羽化率などきわめて異常で、原告自身も著書の中で「奇跡」としか説明ができないほどです。
その後、平成7年には羽化した20万匹だったと報告していましたが、この数字は、原告自身がテレビの報道番組のなかで「20万匹は上司から指示されてついたウソだった」と告白、弁明しています。
原告はウソを指示した上司とは誰だったのかも説明することができず、上司の指示という原告の主張は崩されていますが、いずれにせよ、20万匹という羽化数は否定され、実際のところ何匹が羽化したのか、なんら記録はなく、すくなくともこの時点で、累代飼育の継続を根拠づける証拠は消滅しています。
また、原告は委託事業者「むし企画」に「ホタル幼虫等が死亡した場合は速やかに福島県双葉郡大熊町産のゲンジボタル幼虫、栃木県栗山村産のヘイケボタル幼虫と同じ「遺伝子」「DNA」を持ち、且つ同じ「令」個体を委託者が速やかに用意する。」ことを指示しています。死なせたらその分だけのホタルを持ってこいというのですから、このことからも累代飼育など虚構だったということがいえます。
このほか、累代飼育に関わる原告の主張、報告は自然法則に反することばかりです。
300個の卵とは、ほぼゲンジボタルのメス1匹が産卵する卵の数に相当しますが、原告は、ホタルには近親交配をさける本能があり、近親交配はないと主張してきました。しかし、300個の卵からたとえ数年でも近親交配なしに累代飼育を続けることは、数学的な組み合わせを考えても不可能なことです。
原告の主張する説がたんに誤りで、実際には近親交配で累代していたとしても、数年累代を重ねれば、近交弱勢という障害が発生することが知られています。しかし、ホタル館ではこの障害の発生は見られず、このことも累代飼育に対する大きな疑念の根拠となります。
飼育密度から考えても、あのホタル館の広さで2万匹を毎年羽化させることは、きわめて異常なことだといわなくてはなりません。
ホタルは脱皮のたびに死亡する個体が多く、羽化数の数倍ないし数十倍の幼虫がいるはずです。2万匹を羽化させるには最低でも7万匹程度の終齢幼虫が必要ですが、飼育していた水路の川表面面積は、24万9千平方センチメートルしかなく、区の報告書によれば「7万匹のホタルの幼虫が生息する場合、生息密度は1平方センチメートルあたり0.28匹」となります。1匹あたりでは約3.6平方センチメートルです。餌となるカワニナが同じ水域にいたとすれば、異常な過密状態といえます。
これらの疑問に答えることなく、原告の主張だけを根拠に累代飼育の成功を認めるようなことは、およそ科学的な態度とはいえないものです。
◆矛盾だらけのホタル特許
この累代飼育の可能としたとする特許技術なるものも、実態のある技術であるとはいえないもので、この特許を前提に原告を評価することはできません。
特許の取得をもって、その技術が実用にたる適正なものであるかどうかを判断することはできません。特許は、自然法則に反することがあからさまなインチキな発明以外は、もっぱら先願があるかどうかで審査され、先願がなければパスすることは多いからです。特許庁で客観的な検証実験などがされているわけではないのです。
特許を保有し管理していたはずの板橋区も、特許が取得できたことで満足し、その具体的な技術内容を検証することをしてきませんでした。「特許は板橋区の宝」などと絶賛してきた私を含む区議会議員らも、何が発明なのか、どんな技術なのか、知ることも、知ろうとすることもしてきませんでした。
しかし、改めて特許公報の内容を読んでみると、多くの不審点、矛盾があることに驚かされます。
誤字がある、表の取り違えがあるといったことは些細なことのようですが、訂正もされていないということは、文章自体、十分なチェックを受けていない証拠です。
内容についても、たとえば飼育水の条件は「カルシウムを中心に多様なミネラルを適度に含んだ軟水であること」と記載されていますが、軟水とはカルシウムとマグネシウムの濃度である硬度が1リットルあたり120mg以下の水をいいますが、この特許ではカルシウム硬度だけで152ミリグラム、総硬度で455ミリグラムと記載されており、硬水にあたる数値を示しています。これは、この特許申請者が軟水と硬水の違いすら理解していないことをしめすものです。
「好気性バクテリアが酸素を地中深く運んで前期水域部の端々へと酸素を巡らせる」という記述もたいへん非科学的で矛盾したものです。好気性バクテリアは酸素のある環境を好むのであり、酸素の乏しい地中深くに自ら酸素を運ぶことはあり得ません。こうした生物学の基礎的知識すら、この特許内容は欠けているのです。
特許公報では「平成12年6月1日時点での水槽内における水域部で繁殖している微生物」として、フラボバクテリウムからクロストリジウムまで、20種の生物を列挙していますが、一般的に自然界に存在する生物とはいえ、これらの微生物を検出する施設や手段を板橋区が有していないことから、実際にこれらの微生物が存在したとするエビデンスは存在しません。
そもそもこの特許は建屋または水槽で「外部と仕切られた空間内」での飼育方法であるのに、特許が実施された場所のほとんどがオープンスペースであった点も、特許技術の適格性を疑わせるものです。
原告は、日本国内や韓国で、300カ所以上でこの特許技術でホタル再生を成功させてきたと豪語していますが、実際にはホタルが飛んだのは1年目だけで、累代の繁殖が成功して2年目以降もホタルが飛翔した事例の報告はありません。
京都府宇治市植物園のホタル事業も板橋区に特許使用料を納めていますが、実際には毎年「補助飼育」と称して外部からホタルが持ち込まれています。
神奈川県藤沢市でも、原告からルシオラ社を紹介され、ホタル事業を行ってきましたが、ここでも「補助飼育」として、千葉県匝瑳市の養殖場からホタルが持ち込まれていました。
私が調査した横浜市や文京区でのホタル飼育者も、板橋区の特許技術や原告の知見を信頼してホタル飼育をまかせたものの、実際にはホタルが発生することなく、原告がホタルを持ってきたり、毎年、ルシオラからホタルが郵送されてくるとのことでした。
原告自身、著書のなかで、自分が現場に行かないとホタル再生はできないという趣旨のことを書いています。再現可能な自然法則を利用した科学技術ではなく、属人的な特技であることの告白であり、特許にふさわしいものとはいえません。
重大なことは特許では、特許では保水のために富士砂、赤玉土、黒土を用いるとしているにもかかわらず、実際の再生現場では、これらの安価な土ではなく、高価な「蛍殖土」なるものを依頼者に買わせていたことです。
蛍殖土の正体は火山灰を素焼きしたものですから、保水する能力に乏しく、常に水まきをしていなければならないというしろものです。こうした特許内容と相反するものを使わせていたこと自体が特許の正当を疑わせるものです。
◆合意なき和解の欺瞞
さいごに、3月3日から4日にかけて、原告代理人が一部の区議会議員らに送りつけた文書についてです。この文書には、区が和解案に示したような「原告が非違行為を認めた」というような態度はまったくみられず、むしろまったく逆に、原告の主張が全面的に認めらた勝訴的和解などと称しています。
和解とは双方の合意にもとづくものであるはずですが、実態はまったく合意がないことを示すものです。このままの状態で和解することほど欺瞞的なことはありません。
以上のように、和解には何ひとつ合理的な理由も正当性もありません。区民にとっても利益もありません。
裁判所はどちらかの勝訴、敗訴を判断したわけではありません。提出された証拠についても当否を判断していません。
板橋区はまだまだ裁判をたたかえるだけの根拠をもっています。区民に何があったかをきちんと説明する義務を果たすためにも裁判の判決も求めるべきことを申し上げ、和解案に反対討論といたします。
(ごぶさたしてました。久しぶりのブログ更新です。)
(写真は撤去された板橋区ホタル生態環境館の跡地)
次の文章を読んでみてください。少し長い文章ですが、できるだけ予断を持たず、何が書かれているか、どんな性質の文章なのか、考えながら読んでみましょう。(誤字も多くありますが、そのまま引用しています)
【引用始まり】
ホタル生態環境館業務管理委託仕様書
板橋区ホタル生態環境館業務管理委託について下記の項目の全てを業務しなければならない。業務委託者は水生生物全般及び清掃等に精通している者とする。
月20日で、休館日は区担当職員に従い業務を執行する。この時ホタル幼虫・ホタル成虫・蛹・成虫及び貴重な動植物の管理を行う。但し、これらの業務執行に関して個体等の異変や死亡等があった場合には全て委託者の責任であり、速やかに同じ個体及び同じ遺伝子・DNAの持ったものを用意する。
飼育室
*180cm ホタル生態水槽6本以上
1.業務執行日に全ての生態水槽の水質検査を行う。但し、計測機械等はデジタル仕様で、100分の1まで計測でき、且つ管理委託者が器機を用意すること。計測したデーターは全て板橋区ホタル生態環境館のものとする。(別途水質調査内容明記)
2.区担当職員の指示に従い、飼育水交換を行う。但し、水道水を用いるので、PH等が交換する生態水槽に合わせなければならない。変動値は0.2とする。これによりホタル幼虫等が死亡した場合は速やかに〈注意1〉福島県双葉郡大熊町産のゲンジボタル幼虫、栃木県栗山村産のヘイケボタル幼虫と同じ「遺伝子」「DNA」を持ち、且つ同じ「令」個体を委託者が速やかに用意する。
3.区担当職員の指示に従い、濾材交換(骨炭・珊瑚砂等々)を行う。但し、濾材交換時に飼育水異変があり、ホタル幼虫等が死亡した場合は〈注意1〉と同じである。
4.区担当職員の指示により、飼育等を与える。飼料等は全て委託者が用意する。(別途飼料内容を明記する) これにより水質悪化に伴いホタル幼虫等が死亡した場合は〈注意1〉と同じである。
5.上陸基・羽化基・産卵期・孵化期は区担当職員と共に早朝作業及び夜間作業等を行う。この時に区担当職員の指示に従い適切な業務を執行しなければならない。これによりホタル幼虫・卵・成虫等が死亡した場合は速やかに〈注意1〉と卵・成虫等を用意すること。
6.区担当職員の指示により用土交換補助を行う。この時に量を誤り、且つ敏速に業務遂行が出来ずに、水生のホタル幼虫・カワニナ・水生動物が死亡した場合には〈注意1・2〉を行う。
7.羽化期に区担当職員の指示により上陸地に細霧作業を行う。但し、誤って羽化個体が少ない場合と全滅の時は全て委託者の責任において成虫を〈注意1〉2日以内で用意すること。
*180cm等カワニナ育成水槽4本及び90cm等カワニナ予備水槽6本以上
1.業務執行日に全てのカワニナ水槽の水質検査を行う。但し、計測器はデジタル仕様で、100分の1まで計測でき、且つ管理委託者が器機を用意する。計測したデーターは全て板橋区ホタル飼育施設のものとする。(別途水質調査内容明記)
2.区担当職員の指示に従い、飼育水交換を行う。この時PHの幅は0.1とする。誤って〈注意2〉カワニナ等を死亡させたときは速やかに福島県産と栃木県産のカワニナを委託者が用意する。
3.区担当職員の指示に従い、濾材交換(骨炭・エーハイサブストラット・珊瑚砂等々)を行う。この時、誤って水槽内のカワニナ等が死亡した場合は全て委託者の責任において〈注意2〉を行う。
4.カワニナ水槽内の水生植物の管理を区担当職員の指示により行う。この時誤って枯れさせた場合は同じ水生植物を委託者が用意する。但し、「タヌキモ」等の貴重な植物は保護されている場合が多い。従って委託者が責任を持って各都道府県及び市町村に許可を取り採取する。
5.区担当職員の指示によりカワニナ水槽よりカワニナの稚貝を採取し、孵化幼虫に与える。この時稚貝を死亡させたり、若しくは個体数を誤り孵化幼虫を死亡させた場合には同等の稚貝と孵化幼虫〈注意1と同じ〉を速やかに用意すること。
6.区担当職員の指示により各カワニナ水槽に飼料を与える。この時誤ってカワニナ等を死亡若しくは著しく個体に変化が見られた場合には委託者の責任で〈注意2〉を行う。
7.カワニナ水槽には貴重な魚類(イトウ、ホンメダカ、ヨシノボリ、ヤマトヌマエビ等々)が入っている。委託者が区担当職員の指示に従わなく死亡させたときは速やかに同じ魚類を2日以内に用意する。
*「内せせらぎ」及び「外せせらぎ」
1.区担当職員の指示により簡易水質検査を行う。結果報告は5分以内に報告すること。
2.区担当職員の指示により飼育水交換の補助作業を行う。この時指示に従わなく且つ生態に多大なる影響があった場合には全ての責任は委託者にあり、ホタル個体及びカワニナ、水生動物、水生植物(毎年平均約100万匹以上のゲンジボタル・ヘイケボタル幼虫、約80㎏のカワニナ等々)を3日以内に同じ種のものを用意すること。
3.区担当職員の指示により、用土交換作業補助を行う。用土交換時に委託者が用土攪拌等に欠陥があった場合には全ての用土を取り出し、「ホタル仕様用土」を委託者が全て用意する事。
4.循環ピット内点検及び流速ポンプ、ストレーナー清掃作業を区担当職員の指示により行う。循環ピットには「イトウ」が生息しているので傷等を決して付けない。誤って傷等を個体に負わせた場合には同種魚を2日以内で委託者が責任を持って用意する。
5.上陸地植物手入れを区担当職員の指示により行う。貴重な植物、例えば「シラネアオイ」「アツモリソウ」「ザゼンソウ」「クマガイソウ」「ウチョウラン」「ツチアケビ」「ヤマトキソウ」「ウラシマソウ」「サギソウ」「ニリンソウ」「カタクリ」等々の200種を越える植物である。指示に従わず枯れさせた場合には委託者が責任を持って同種を2日以内に用意する。
6.区担当職員の指示により濾過槽2基の点検及び濾材交換、濾材洗浄作業を行う。この時指示に従わなく且つ好気性バクテリアが死亡した場合には「せせらぎ」全体の危機を意味する。よって委託者は全責任を取らなくてはならない。
7.冷温水器及び配管、バルブ等の点検及び清浄作業を区担当職員の指示により行う。誤って器機等の破損が生じた場合には当日に全ての箇所を委託者が責任を持って復旧する事。
8.天窓・寒冷紗の清掃及び点検を区担当職員の指示により行う。ガラス等が破損した場合には委託者が全責任をもって当日に復旧すること。
9.木道の清掃を区担当職員の指示により行う。流し水が大量に上陸用土に入り、且つ生態に多大なる影響があった場合には委託者が全責任を取る事。
10.上陸期・羽化期・産卵期・孵化期は当然夜間作業及び早朝作業を区担当職員の指示により行う。
*水生昆虫及び両生類水槽10本以上
1.タガメ水槽、ゲンゴロウ水槽、タイコウチ・コウイムシ水槽の飼育水を区担当職員の指示により交換する。この時、誤って死亡させたときは現飼育施設に飼育している個体と同じ産地のものを3日以内で委託者が用意すること。
2.カジカガエル、トウキョウサンショウウオ水槽の飼育交換を区担当職員の指示により適切に行う。但し、誤って死亡させた場合は委託者が責任を持って同じ産地(奥多摩檜原村)の個体を役場の許可を取って採取し、用意すること。
3.水生生物が産卵し繁殖したときは区担当職員の指示により適切に孵化個体を保護しなければならない。この時誤って死亡した場合は委託者が同等の個体を責任を持って用意する。
4.水生昆虫及び両生類水槽に生き餌を区担当職員の指示により行う。全ての生き餌は純国産のイトミミズ・赤虫・さし(蛆)・メダカ・金魚等で、委託者が用意する。この時誤って死亡させた場合は委託者の責任で死亡個体を用意する。また、生き餌に関して区担当職員が鮮度やその他で適切ではないと判断した場合は2日以内で同等の生き餌を用意すること。
*淡水魚展示水槽及びその他の水槽(契約個所の生態槽も含む)
1.ムサシトミヨ水槽、アカメ水槽、ヤリタナゴ等水槽の飼育水交換を区担当職員の指示により適切に行う。誤って死亡若しくは著しく個体に変化が見られた場合には同等の個体を3日以内に委託者が用意する。
2.発光性海水魚水槽・発光性熱帯魚水槽の飼育水交換及び給餌作業を区担当職員の指示に従い行う。この時個体が死亡著しく変化が見られた場合には速やかに同等の魚類を委託者が責任を持って用意すること。
*産卵容器及び孵化幼虫バット100本以上
1.ゲンジボタル、ヘイケボタル産卵容器(平均80個前後)飼育水交換を区担当職員の指示に従い適切に行う。毎年約100万個前後の産卵数がある。誤って卵を死亡させた場合は委託者が責任を持って当館が原産地から役場の許可をもらい2日以内で採取し、個体数を合わせなければならない。
2.産卵数及び孵化幼虫数は区担当職員の指示により的確に数えなければならない。この時誤って卵を潰したり、乾燥させたりして死亡させた場合は委託者が責任を持って当施設原産地から同等の卵数を確保しなければならない。また孵化幼虫数も同様であり、この時のデーターは全て板橋区ホタル生態環境館のものとする。
3.委託者の勤務日に孵化幼虫ステンレスバット飼育水交換を区担当職員の指示により適切に行う。この時 孵化幼虫を誤って死亡若しくは流してしまった場合は速やかに同数を原産地に許可を取って採取し、2日以内に用意すること。
4.委託者が勤務日に孵化幼虫ステンレスバットに稚貝を区担当職員の指示により適切に与える。この時、稚貝数を誤り、孵化幼虫が餓死若しくは稚貝が多く入り、アンモニア・亜硝酸濃度が高くなり、個体が死亡した場合は委託者が全責任を取り、当施設原産地より同数を確保しなければならない。
*羽化個体と夜間特別公開
1.ゲンジボタルとヘイケボタルの羽化期は早朝作業・夜間作業を行う。全ての水質調査や上陸地への湿度調整、植物育成状況等を区担当職員の指示により適切に扱う。もし羽化個体が委託者が誤って死亡させた場合には全責任は委託者にあり、同じ遺伝子を持った羽化個体を同数2日以内で用意すること。
2.夜間特別公開日は4月下旬には決定する。これに伴いホタル成虫羽化日を区担当職員が逆算する。湿度・温度、水温・日照時間等をコントロールする。これに伴い区担当職員の指示により適切な作業を行わなければならない。もし羽化個体が委託者が誤って死亡させた場合には全責任は委託者にあり、同じ遺伝子を持った羽化個体を同数2日以内で用意すること。
もし、羽化個体数等が委託者により誤り死亡させたり、著しく個体が弱く夜間特別公開が出来ない場合には、委託者が全責任を取り、各行政・各報道機関に対して全面的に出なければならない。
3.2の個体数が委託者に明らかに誤った場合には過去羽化個体数の平均数と同等のゲンジボタル・ヘイケボタル成虫を2日以内で用意しなければならない。
*資料作成及び来館者等の説明
1.各生態水槽及びカワニナ水槽等々と「せせらぎ」の作業日誌を書くこと。
2.区担当職員が資料等々の作成を指示したとき速やかに実行すること。この時のデーターは当施設のものであり、全て施設の管轄下にある。万が一データーが露出した場合には、委託者は「告訴」され、且つ責任は大きく社会的にも責任追及がある。
3.区担当職員の指示により来館者に適切な説明を施さなければならない。来館者が不愉快に感じた場合は委託者が全責任を取る事。
委託者負担品
水質検査機一式(一流メーカー品)
水質維持等
1.バイオコリンH3
2.ステラコリン
3.フローラプライド
4.バイタル
5.水作ニューフラワー濾過器
6.水作エイトM
7.水作エイトS
8.人工海水(極上品)
9.骨炭(叶産業製品 20㎏入り)
10.エアーポンプ
11.エアーチューブ
12.エアー分配機
13.各フィルター
14.上記の他 当館が必要とするもの全て
濾材及び上陸用土関係
1.抗火石
2.トルマリン入り訓炭(実用新案)
飼料
1.テトラミン
2.テトラフィン
3.クリル
4.ドログリーン
5.ドロミン
6.ディスカスフード
7.国産冷凍赤虫
8.国産イトミミズ
9.サシ(蛆)
10.ミルワーム
11.ロイヤルミルワーム
12.向日葵の種
13.新鮮野菜及び果物(鈴虫・松虫・カンタン等の鳴く虫)
14.上記の他 当館が必要とするもの全て
【引用終わり】
この文章は、今は廃止された板橋区ホタル生態環境館でホタル飼育業務を板橋区から委託されていた「むし企画」代表が、区から契約を途中解除されたことを不服として板橋区を訴えた裁判で、原告の「むし企画」の側が証拠として裁判所に提出した書面の一つです。
この裁判では、区側が「むし企画は委託した内容の業務をしていなかったので、契約解除は正当」と主張しているのに対して、「むし企画」側は「区から委託された業務は行なっており、契約解除される理由はない」と反論し、原告と被告が正面対決しています。
引用した文章は原告の「むし企画」代表が〝委託されていた内容〟の証拠として示したものです。
原告のむし企画はこの文章は板橋区が作成した正式な「仕様書」だと主張していますが、被告の板橋区側は、正式な「仕様書」とは認めておらず、区のホタル飼育担当職員が区に無断で私的に作成した文書だと主張しています。
誰がこの文書を書いたのか?では原告と被告は対立していますが、「区担当職員」から「むし企画」代表に手渡された文章であるという点では両者の認識は一致しています。
それでは、この文章=「仕様書」は誰が書いたのか? ほんとうに板橋区の正式な『委託書』なのでしょうか?
結論をいえば、私はこの仕様書は板橋区が作成したものではなく、まったくの私的文書だと判断しています。
こんな文書を行政機関がつくるはずがありません。どこがおかしいかは、読んでいただければ、いくつも指摘できると思います。
不審な点をあげればきりがないのですが、簡単な表現上の問題をまず指摘すれば、文中「委託者」とされているのは明かな誤記で、本来なら「受託者」と表記すべきです。そうでないと文章全体の意味が通りません。行政文書のすべてが、「まちがいがない」とはいえませんが、複数でチェックしているはずの行政文書では、ここまで基本的なミスは見逃されるはずのないものです。
内容の点でも、委託を受けた「むし企画」の側(文中は『委託者』)に「全責任をとること」を強いており、対等な契約にはなっていません。法的にも問題のある文書です。
いちばん重大なのは、この私的な「仕様書」が、ホタル飼育業務の手順や方法を示したものにはなっておらず、ひたすら〝数合わせ〟を、受託者である「むし企画」に強いていることです。
これでは、たとえ飼育や繁殖に失敗し、累代飼育が途絶えたとしても、表面上は例年通りのホタル飼育規模が維持されることになります。飼育データーが対外的に「露出」した場合には「告訴する」とまで書かれているのですから、途中でホタルが死亡しても、正直に「何匹死んだ」などということは、区や区民には知らされないことになります。
そもそもホタルもカワニナも生き物ですから、毎年数に変動があっても当然です。それをこうした「仕様書」で人為的に報告数をコントロールしていたとすれば、これまで「区担当職員」が区や区民、マスコミに報告してきた数値(卵数、孵化数、幼虫数、上陸数、羽化数)はまったく根拠がなく、信用できません。
こんなホタル飼育事業に板橋区民は毎年3000~4000万円(うち「むし企画」への委託費は年1400万円)、25年間でゆうに10億円以上の税金を支出させてきたのです。
区民にはホタル館の真相を知る権利があり、区議会議員には区民に事態を説明する義務があります。
区議会のすべての会派、政党に沈黙することは許されません。
なぜ、こんなホタル館の実態を黙認してきたのか? きちんと説明すべきでしょう。