板橋区議会に坂本健区長が提出した「あいキッズ(放課後全児童対策事業)条例」案。この条例により従来の学童保育が廃止されるなど、問題の多い条例で区民や父母から批判の声が相次いでいます。 なかでも第8条第1号は、あからさまな障害者差別条項であり、けっして看過できません。
第8条(利用の不承認)
教育委員会は、次の各号のいずれかに該当するときは、前条第2項の承認をしないことができる。
(1)心身に著しい障がいがあり、集団生活に適さないと認められるとき。
(2)前号に掲げるもののほか、教育委員会が特に利用を不適当であると認めるとき。
ここで「前条第2項の承認」とは、あいキッズを午後5時以降も利用するときの承認のことですが、教育委員会はここから障害児を締め出そうというのです。
この条項は、現行の児童館条例に同文の規定があり、それをそのまま「横引き」したのが、あいキッズ条例です。
児童館条例の障害児差別条項に問題の根源があるとはいえ、ノーマライゼーションの時代のいま、あからさまな差別条項を含む条例を新規に提案すること自体、提案者の区長や教育委員会の人権感覚が問われます。
現在、障害者差別をなくすための法整備が進んでいます。
「何人も、障害者に対して、障害を理由として、差別することその他の権利利益を侵害する行為をしてはならない」を明確に規定しました。
その第7条では「行政機関等は、その事務又は事業を行うに当たり、障害を理由として障害者でない者と不当な差別的取扱いをすることにより、障害者の権利利益を侵害してはならない」ことが自治体に義務付けられています。
あいキッズ条例第8条は、利用を不承認にする際の理由に「著しい障がい」を掲げているのですから、基本法第4条や差別解消法第7条に抵触することは明らかです。
ただし、内閣府の官僚に問い合わせたところ、「法は個々の場面の差別を対象にしたもので、条例の内容や制度を対象にしていないので、ただちに条例が法に違反するとはいえない。また個々の場面においても、正当な理由があれば法違反にはならない」(要旨)という回答がありました。
この官僚の回答では、例えばあるお店が入口に「障害児お断り」の張り紙をしても違反にはならないが、実際に店に入ろうとする障害児の入店を拒んだら、差別であり法違反になるというものです。
それでも、「お断り」の張り紙は法の目的に反することは明らかでしょう。
また、正当な理由があれば障害児と健常児を区別することが許されるとしても、この場合の「正当な理由」とはどんなときでしょう?
障害児が希望することであっても、たとえば安全が確保できない場合など客観的はかえって、その障害児本人にとって不利益になることはあり得ることです。
その場合でも「正当な理由」とは、障害児本人にとって何が利益になるかを判断して決めることです。
差別解消法も「不当な差別的取扱いをすることにより、障害者の権利利益を侵害してはならない」としています。
ふりかえって、もういちど、あいキッズ条例第8条を見ると「心身に著しい障がいがあり、集団生活に適さないと認められるとき」とあります。
この文章は、「障害児のため」ではなく、「集団のため」の規定になっています。
この意味でも条例第8条は法に反する差別規定そのものです。
「集団生活に適さない」とは「仲間はずし」の理屈であり、これがこれまでどれほどの障害者差別を生んできたか、歴史を反省すべきです。
じつは、教育委員会があいキッズ条例について区民からのパブリックコメントを募集した時、第8条にあたる部分を「疫病その他により、集団生活に適さないと認められるとき」と説明してきました。
骨子案から正式の条例案をつくるときに「疫病その他」を「心身の著しい障がい」に変えてしまったのです。
疫病と障害を同一視しているとしたら、それも許せません。
また、疫病か、障害かによって、「集団生活に適さない」の意味も大きく変わってきます。区民への説明と違う条例案を出してきたことは詐欺的手法といわれて仕方ないでしょう。
この他にも、あいキッズ条例は、「全ての児童を対象に」するとしながら、第12条で「教育委員会は(略)特に必要があると認めるときは、あいキッズの利用を制限することができる」規定を設け、事実上、どんな子どもを受け入れるかに関しての判断や権限を、教育委員会に一任することをもとめています。
とんでもない差別条項を含む、あいキッズ条例は廃案にし、区民参加で子どもたちの放課後のあり方を十分に検討しなおすべきです。