これまでしばらくナノ銀やクロマルハナバチなど、板橋区ホタル生態環境館の本来業務以外の問題を検証してきましたが、今回は本来業務であるホタル飼育の実態について、飼育を委託されていた「むし企画」の役割を通じて考えたいと思います。 板橋区監査委員会は「むし企画」について次のような意見 を通告しています。
資源環境部環境課では、ホタル飼育事業の一環として、ホタル生態環境館のビオトープ(実験水路)管理及びホタル飼育・水質管理調査業務(以下、「管理調査業務」という。)について、「むし企画」に 10 年以上にわたり業者選定による特命随意契約で委託契約を行ってきた。 この事業について、環境課の定期監査の期間中に次の事実が認められた。 環境課は、平成 26 年1月 27 日にホタル生態環境館におけるホタル等の生息数などを調べるため、国土交通省制定のマニュアルに基づき、同館の調査を実施し、ホタルの幼虫やカワニナの個体数を調べたところ、ホタルの幼虫、カワニナともに非常に少ないことが判明した。 環境課は、管理調査業務の受託者である「むし企画」が、当該業務を自身で履行する能力を有しておらず、将来においても業務を履行できる見込みがないと判断し、2月1日付で平成 25 年度の管理調査業務の委託契約を解除した。 これらの経緯を踏まえ、環境課は、事業者の選定方法や委託業務に係る履行内容の確認が適正に行われていたのかをはじめ、これまでの事業運営を十分調査し、事業の適正化を図られたい。
◆カワニナとヒル
元飼育担当職員(3月に懲戒免職。ホタル博士)が以前に書いたとされる論文の紹介ですが、内容は、ホタル幼虫の餌となるカワニナにとりつくヒルの発生を防ぐ技術についてです。
論文では「一定時間塩分濃度を1.5%を限度として維持することにより、ヒル類の発生を抑えられた。カワニナ育成水槽では、1.5%の塩分濃度中に48時間を限度として塩浴させる応急措置を行い、現在の所、本ホタル生態槽では、ヒルの大量発生は一度も起こっていない。」といいます。
ホームページの記事はこの引用につづき、「この件について、ホタル生態環境館を手伝っていたボランティアに話をした所、さらに以下のような面白い話を伺えました」として、次の3点を挙げています。
- 塩分濃度の調節でヒルを落とす事は可能でした。水槽の場合には、薬浴効果を上げるために「補助水槽」を使用することもありました。
- 生態槽やせせらぎにはヤマトヌマエビやメダカ、トビゲラ・カワゲラの幼虫などたくさんの種が共生して居ますので、慎重に対応していました。
- ここで一番大切なのは、外部からカワニナを持ち込まない事です。田んぼや水路のカワニナには大量のヒルの卵や幼ヒルが入り込んでいます。
そして「外からカワニナを持ち込むのは厳禁だったのですね」と結んでいます。
一見、ごもっともなお話しなのですが、釈然としないところがあります。なぜなら、この「ホタルの闇」連載の第1回目 で紹介したように、カワニナが外部から持ちこまれていたことを示す宅配便の伝票があるからです。
この伝票について、「守る会」会長の樋口とくじさんは「これは、全国に目配りをしている中で、どうしても不足気味という地域からSOSのあった折に外取りのカワニナをお預かりし、ヒルや病原性の菌など塩分などの処理対策を施して、現地に送ったものでしょう。前掲のように当施設に入れる事はありません」
と説明しています。
第2回「ホタル放流・預かり飼育のふしぎ」 で、区長が「板橋区ホタル生態環境館は、他自治体や団体のホタルの幼虫を預かり、その方たちに代わって飼育する施設ではございません」と答弁していることを紹介し、施設的な条件もないことを指摘しましたが、カワニナの「預かり」飼育も同様です。
しかも、このカワニナの送り主は「SOS」を発しているような「地域」ではなく、ホタル館でのホタル飼育を委託されている「むし企画」の代表(当時)なのです。 「どうして、むし企画がカワニナを板橋区ホタル生態環境館に送っていたのか?」という疑問に、樋口さんは次のように答えています。
当然です。むし企画さんは施設をバッグアップする指定業者ですから、関係依頼先との間に立つ事は自然です。ホタル施設のメンバーがカワニナ探し(採り)に奔走するハズがありません。役割が異なります。
この説明も「むし企画」の本来の役割からすると納得できるものではありません。
「むし企画」の委託内容は以下の委託契約書と仕様書にあるとおり「ホタル生態環境館ホタル飼育・水質管理調査業務」と「ホタル生態環境館ビオトープ(実験水路)管理業務」であって、「関係依頼先との間に立つ」ことも、板橋区以外の他団体のために「カワニナ探しに奔走する」ことも、委託業務には含まれていません。
現在「守る会」の会長をつとめ、長年ボランティアスタッフとして元職員とともにホタル館での活動にとりくんでこられた樋口さんの証言どおりなら、「むし企画」は、区から受け取った委託金(年間約1400万円)を、指定された業務以外にも使っていたことにもなり、重大な契約違反です。
そしていま、クロマルハナバチの飼育販売や「ナノ銀除染」など、本来業務以外で元職員が特定事業者に『利益供与』していた事実が明らかになり懲戒免職になっているわけですから、「むし企画」がそれらに関与していたかどうかも当然、調査されるべきでしょう。
◆何も語らぬ、語れぬ「むし企画」 いったい「むし企画」はホタル館で何をしてきたのでしょうか?
「むし企画」は企業でもNPO法人でもなく「個人グループ」ですが、「ホタル飼育にくわしい」などの理由から平成14年4月から競争入札によらぬ随意契約でホタル館での飼育業務を委託されてきました。
初代のグループ代表は昨年末に亡くなっています。昨年の早い時期には体調を崩されていたようで、現在の代表が引き継いだのは昨年4月からです。
前代表も現代表も本業は、カワニナやホタルを含む生き物を扱う業者で、「むし企画」という屋号は、板橋区との契約のときだけ使われています。
ホタル飼育のくわしい内容は、むし企画の代表とその従業員が知っているはずですが、現代表は従業員の氏名・人数、委託の使途について、何も区に報告していません。
私がむし企画から何の説明もないことを問題にしていたところ、ことし2月14日15時10分に、「守る会」メンバーの方から、元職員(当時は免職されていませんでした)からのメッセージということでのダイレクトメッセージをいただきました。「阿部さんより、メッセージです。むし企画さんは既に1月31日で契約不履行となっており板橋区とは関わりを持ちたく無いのと表面には出たく無いとの事でした。むし企画さんから派遣されていたSさん、Nさん、Hさん等は本当に今回の件で板橋区に対してウンザリしています。むし企画さんは解散に追い込まれました。 Hさんは昨年8月下旬に呼び出され、有ること無いことを言われ、痴呆症になり、現在入院しています。人をここまで追い込む理由はあるのでしょうか?」 (S、N、Hとイニシャルにしたところには本名の姓が入りますーー引用者)
これにより、「むし企画」には代表以外に3人いることがわかります。 それにしても「痴呆症(ママ)にな」るほど追い込まれたとは、どんなことだったんでしょうか?
元職員の代理人弁護士が区長に提出した「意見書」のなかで、現代表に対する区側の「事情聴取」に抗議しています。
「話の内容は、来年の委託契約に関するものではなく、委託契約の履行内容に関する問題の指摘で、委託契約書の写しを示しながら、①そもそもの納品をしているのか②委託の費用はどのように使われているのか③人件費はいくらであるのか、人件費と称して他の用途に流れているのではないかというような糾問的な話をされました。」
代理人「意見書」では、さらに「事実に基づかない憶測による質問」がされたと主張し、「これらの聴取の内容があまりに一方的であり、かつ事実無根のことであったため、(現代表)も非常に困惑するとともに、社会的な信用を傷つけられる思いで、いたく精神的な打撃を被りました」としています。
元職員と「むし企画」は、従業員が「痴呆」になり、代表が「精神的な打撃を被」るほど、区側からヒドイ扱いを受けたと訴えているのですが、区側が質問している①②③の内容はどれも委託事業者ならすぐに答えることのできる(答えなければならない)基本的なことばかりです。 かりに「事実に基づかない憶測による質問」があったとしても、事実を知っているものであれば、すぐに回答し、それ以上の問題に発展することはありません。
また「意見書」では、「むし企画」代表やホタル館関係者に警察が事情聴取している事実を明らかにし、「もちろん、このような事情聴取は区からの働きかけがなければ始まるはずもありません。根拠らしい根拠もないまま警察が動いているというわけですから異常としか映りません」と、警察の動向まで批判しています。
しかし、年間1400万円にも及ぶ公金(委託金)の使途が不明のままであり、2万匹と報告されていたホタル(区民の財産)の飼育が確認されていないのですから、事情を知っている者に聞き取り調査をするのは当たり前です。
なぜ、「むし企画」は委託業務に関することについても回答していないのか?――この残された疑問を放置することは許されません。
(つづく)