前年2014年1月27日に実施された生息調査では、2万匹以上いるはずのホタルが2匹しか見つからず、推計でも23匹とされていました。
私は「なぜ、そんなにも少ないのか?」という疑問に答えるよう、区に要請してきましたが、1年経ってようやく、その回答がしめされました。
これまでも、このブログ「ホタルの闇」で考察してきたとおり、ホタル生態環境館(ホタル館)で、毎年2万匹以上のホタルを飼育、羽化させることは、ほとんど不可能なことでした。
しかし、今回の区の報告書の結果は、私の予想を上回る衝撃的なものでした。
◆報告書が明らかにしたこと
報告書のポイントは次のとおりです。
①現存するホタルをDNA検査した結果、ゲンジボタルは西日本産であった。
→これは、1989(平成元)年に福島県大熊町からゲンジボタルの卵300個を採取し、これを25年にわたり累代飼育してきたという元飼育担当職員・阿部宣男さんのこれまでの報告内容をくつがえす結果です。
②夏の夜間公開日前に、ホタルが外部から持ちこまれたことを示す物的証拠があった。
→これは、「持ちこみはありえない」という阿部氏の主張を否定するものであり、区民が鑑賞していたホタルは、ホタル館で飼育されていたホタルではなかったことを示します。
①②の結論だけでも「25代累代飼育」という阿部氏とホタル館の「実績」がウソだったという衝撃的な結論をくだしているのですが、それだけはありません。
③毎年の飼育数について「約 20,000 匹のホタルが飼育されていなかったと考えざるを得ない」と結論した。
④2014年1月27日での調査で23匹とされたホタルが同年夏には211匹の羽化が確認されたことについて、「(屋外の)ビオトープ等で発見されたヘイケボタルについては、不自然な点があり、本施設で全て羽化したものとすることは疑問が残る」として、調査後に持ちこまれた可能性について言及している。
⑤2014年1月27日の調査がずさんだったとする阿部氏の主張について、「生息調査で 70,000 匹が、流されたという元飼育担当職員の発言についても、その根拠(物証)はなく、また、そのような事実もなかった」と断定した。
報告書は「ホタル生態環境館のホタルは、外部から人為的移動により持ち込まれ、累代飼育も行われていなかったものと考えられる。このことは、累代に及ぶ板橋育ちのホタルが現時点において存在していないことを意味するものである」と総括しています。
こうした区の報告書に対し、正当性を疑問視したり、不十分な点を指摘するさまざま意見があることは否めません。
私自身、「持ち込みはいつから(何年前から)始まったのか?」「持ちこまれたホタルはどこで(場所)飼育されてのか?」「持ち込みの事実を知っていた者は誰々なのか」「区がホタル飼育のために支出した公金(委託金など)は、じっさいには何につかわれたか? また誰に渡ったのか?」――などの重大な疑問が解決されていないと考えてます。
しかし同時に、今回の区の報告書は、阿部氏が主張してたホタル飼育がウソであったことを、板橋区が公式に認めたものであり、25年にわたり区民を騙し続けてきたホタル飼育偽装という闇のとびらを開く、巨大な一歩であることは間違いがありません。
1月20日の区議会区民環境委員会で、今回の報告書とともに2本の陳情=「板橋区ホタル生態環境館の技術の継承と館の存続を求める陳情」「板橋区ホタル生態環境館の再調査を求める陳情」が審議されました。
これまで日本共産党は「疑惑が解明されないままではホタル館の存廃を決められない」として、陳情については「継続審査」を主張し、賛否を表明してきませんでした。
しかし、「累代飼育はなかった」「ホタルは持ちこまれていた」という報告書をうけて、2本の陳情に「不採択にすべき」との態度を表明しました。
「累代飼育技術はある」という前提の陳情を継続して審議しても、実のある議論はできないと判断したからです。
「板橋区でホタル飼育をしてほしい」という意見があることは承知していますが、仮にそうするにしても、これまでのホタル飼育事業で起きた不正や失敗を認め、その教訓をつかまないままでは、先にすすむことはできません。
今後は、25年にわたるホタル飼育事業とはなんだったのか?――残された疑惑の解明を徹底的におこなうべきでしょう。
◆証拠にならない「飼育日誌」
当事者である元飼育担当職員・阿部宣男さんは、区の調査の正当性を認めず、報告書に反論しています。
そのなかで、区の報告書にさまざまな疑問や不満をぶつけているのですが、阿部氏がおこなってきたとする「累代飼育」については、それが「事実」であることをしめす論拠(証拠)を何もしめしていません。
ただ「昨年1月26日迄は確実に福島県双葉郡大熊町熊川のゲンジボタル、栃木県日光市(当時、栗山村)のヘイケボタルを24世代しておりました」というだけなのです。
阿部氏の代理人弁護士が区の報告書発表に関してマスコミ各社にあてた「声明」のなかでは「これまでのホタルの飼育状況を示す膨大な資料(管理日誌、孵化数等の記録等)、そして全国でのホタル生態環境の再生への協力の事実は、このような報告によって決して消されることはあり得ません」と反論しています。(2015年1月20日 【「元板橋区職員の懲戒処分取消請求事件」と板橋区の不正・捏造】に関する緊急声明)
しかし、代理人弁護士が証拠としてあげている「管理日誌、孵化数等の記録等」はすべて阿部氏自身が書いたものであり、客観的な資料とはいえません。
日誌にはたしかに、受けとった課長など上司の確認印(ハンコ)が押してありました。しかし、このハンコも日誌の内容が事実であったことを裏付けるものではありません。
私は「なぜハンコを押したのか?」をハンコを押した上司に尋ねたことがあります。そのときの答えはこうです。
「一般的に区の職員から業務日誌のようなものが上がってきた場合には、中身を見ることもありますし、数が多ければその時々の決済の量によってもありますが、基本的には中身は正しいものだと思って判こを押すというのが我々の仕事です」(2014年8月19日 板橋区議会区民環境委員会)
中身も確認せずにハンコが押されることは、事務のやり方として大きな問題です。しかし、こうした実態がある以上、上司のハンコも「累代飼育」の客観的な証拠には、なり得ないのです。
なによりの問題は日誌の内容自体にあります。
これらの日誌類と飼育実態の関係について、私は2014年6月6日の区議会本会議で坂本健区長に質問したことがあります。
区長の答弁はつぎのとおりでした。
「次は、ホタルの飼育過程を示す資料についてのご質問です。
ホタルの1年間の飼育過程につきましては、管理日誌により報告をされてまいりました。管理日誌には、大まかに、『6月から7月にかけて卵を採取、孵化後は水槽で飼育し、翌年の3月から4月にかけて、終齢幼虫をせせらぎに移し、その後、上陸してさなぎになり、5月以降に羽化を確認している。』としております。
しかし最近は、孵化後に幼虫をせせらぎに放流すると担当者は説明をしておりまして、管理日誌と整合がとれない状況にございます。このことについて説明を求めていきたいと考えています」(2014年6月6日 板橋区議会第2回定例会本会議)。
日誌は、阿部氏から報告をうける立場の区長ですら「整合がとれない」と言わざるを得ないものだったのです。
じっさいの日誌にはどんなことが書いてあるのでしょうか。
たとえば「ホタル飼育記録簿」なるものは、ゲンジボタル、ヘイケボタルそれぞれの卵数、孵化数、幼虫数、上陸数、羽化数を書き込むことになっていますが、ふしぎなことに過去15年のデータ(数字)があらかじめ印字された用紙になっています。
そのとき、そのときのデータを記入すれば済むのに、過去のデータと見比べながら記入するようになっているのは、はじめから記録にバイアスをかけているようなものです。
「ホタル生態環境館管理日誌」にも、おかしなところがたくさんあります。 たとえば、平成25年7月17日(木)の欄。ここにはヘイケボタルの卵の数を確認したことが記載されていますが、その合計はわずか410個です。この日以外には卵数に関する記載はなく、例年数万個以上あるはずの卵の数として少なすぎます。
また「作業内容」の欄には「ホタル孵化幼虫水槽」の「飼育水交換」という作業が毎日おこなわれていることになっています。
前述の区長答弁でも言及されているように、せせらぎに幼虫を放流したあとは「水槽」は必要ないはずなのに、管理日誌では一年中毎日「水槽の飼育水交換」がおこなわれているのです。それも20本~40本という数の多さです。
区長が「整合がとれない」とは、このことを指しています。
さらにこの管理日誌には1日置きに「クロマルハナバチ♂よりフェロモン抽出」という作業がおこなわれていることになっています。ハチからどうすればフェロモンを抽出できるのでしょうか?――まったく意味不明の作業です。
このように、阿部氏の書いた日誌はホタル飼育の実態を裏付ける資料にはなっていないのです。
◆箱詰めホタルの真相
阿部氏はマスコミの取材にこたえるなかで、区によるDNA検査や、区が示した「持ち込み」の物的証拠に対して反論しています。
報道した各紙のなかで、いちばん詳しく阿部氏の反論を記載した「都政新報」(2015年1月23日付)の記事から、反論の内容をみてみましょう。
この記事のなかで阿部氏はまず、区の報告書がホタルが箱詰めされ宅配便で外部から持ちこまれていたとしていることについて、「8月にホタルを運ぶためには、保冷剤を詰めて温度を一定以下に保たなければ死滅する。空箱のようだった(と宅配便業者が証言している)ということは、ホタルが入っていない証拠」と反論しています。
報告書には、酸素で膨らんだビニール袋にホタルが詰められ、それが発泡スチロール箱に収められている写真が添付されています。
この写真は、阿部氏の説明によれば、ホタル館に持ちこまれたホタルの写真ではなく、鎌倉の有名神社のホタルをホタル館で預かったときに撮られた写真ということになっています。
他所のホタルを預かること自体おかしな話ですが、いずれにせよ箱詰めされたホタルの状態がわかる写真です。
ところがこの写真には阿部氏の反論どおりならあるはずの保冷剤などありません。そもそも、宅配便業者が重さを感じるほどの保冷剤なら相当の数量となるはずですが、阿部氏はどれほどの保冷剤が必要なのか、知っているのでしょうか。
阿部氏はまた、DNA調査について「そもそも第三者が入っていない密室の鑑定。区と委託事業者が調査会社に出したサンプルが本当に館のホタルだとどれだけ信頼できるのか」と批判しています。
しかし「そもそも…」というならば、阿部氏自身が区による聞き取り調査に応じず、疑問点に答えないまま、一方的に辞表を提出し、職場責任を放棄したことが、DNA調査に頼らざるを得なくなった根本原因です。
そして、どうしてもDNAの調査結果に異議があるなら、再調査を求めれば済む話です。区は再調査のためのサンプルは確保していると区議会で答弁しています。
さらにいえば、「累代飼育」がおこなわれた証拠、ゲンジボタルが福島県大熊町由来であることの証拠を、阿部氏自身が提出し、立証責任を果たせば、DNA調査など、もともと無用の調査なのです。
(つづく)